【獣医師監修】それって本当に正しいの?手作り食の情報の見極め方を解説します|連載「獣医さんが教える愛犬・愛猫のごはんのキホン」vol.14
2022.12.07 作成

【獣医師監修】それって本当に正しいの?手作り食の情報の見極め方を解説します|連載「獣医さんが教える愛犬・愛猫のごはんのキホン」vol.14

獣医師/ペット栄養管理士

岩切裕布

岩切裕布

DC one dish獣医師/ペット栄養管理士の岩切です。犬猫に手作り食をしてあげたいと考える飼い主さんが増え、手作り食に関するさまざまな情報が飛び交うようになりました。犬猫は、総合栄養食やAAFCOの基準に沿った食事を摂ることで、栄養の過不足なく健康な食生活を送れます。手作り食をあげる際も、飼い主さんは正しい情報を入手し、犬猫にとって栄養の過不足がないように食事を与えましょう。

前回の記事:【獣医師監修】市販フードにトッピングをする際に気を付けたい食材~きのこ類・豆類・生モノ・乳製品編~|vol.13

もくじ

    手作り食が体に良いって本当?犬猫の手作り食のメリットとは

    【獣医師監修】それって本当に正しいの?手作り食の情報の見極め方を解説します|連載「獣医さんが教える愛犬・愛猫のごはんのキホン」vol.14
    (Julia Zavalishina/shutterstock)

    手作り食とは、愛犬・愛猫のためにお家のキッチンで調理をした食事のこと。手作り食のメリットは大きく3つあります。

    原材料(食材)を自分で選べる

    手作り食の場合、飼い主さんが自分で食材を選び、愛犬・愛猫に与えることが可能です。

    人の場合、食品表示のルールは次のように定められています。

    <食品表示のルール>

    1. 食品と食品添加物に分けて、それぞれ原材料の多い順に記載
    2. 原材料の一般的な名称をそれぞれ記載(✕鉄 〇ピロリン酸第二鉄)
    3. 最も多い原材料は、生産地、または製造地を書く(豚肉(国産))
      ※令和4年4月より表記が必須となりました

    しかし、一般的なペットフードでは、名称が省略表示されていたり、必ずしも多い順番に原材料が書かれていなかったりします。

    <ペットフード表記>

    1. 原材料の多い順に記載するのは、「推奨」であって「必須」ではない
    2. 「ミネラル類(亜鉛、銅、鉄…)」「ビタミン類(コリン、ナイアシン…)」とまとめて表記しても問題にならず、添加されている原材料の形態がわからない

    例)亜鉛:グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、アミノ酸キレート亜鉛、ペプチド亜鉛など、亜鉛と言っても様々な形態があります。

    また、市販のペットフードの多くは原材料が細かく粉砕され、すべてが単一の茶色になっています。そのため、実際にどのような原材料が使用されているかは、製品の見た目から判断することができません。

    このように、市販フードでは消費者が正確に把握することのできない原材料や添加物の懸念を、手作り食は払拭することができます。

    調理工程が明確

    調理工程がはっきりわかることで、アレルギーのような病気のリスクを回避することも可能です。

    市販フードは、同じ工場、同じ機械で何種類もの製品を製造しているため、コンタミネーション(他の原材料が混ざる)を避けることはかなり難しいです。実際、コンタミネーションはいくつも報告されています。

    アレルギーなどの病気で食事制限がある犬や猫の場合、コンタミネーションは病気のコントロールが難しくなる要因になります。手作り食なら、飼い主さんの管理下で排除すべき食材を管理することができます。

    嗜好性が高い

    人の食事に興味を示す犬や猫が多いように、手作り食は、香りや味がよく、市販フードよりも好んで食べてくれることが多いです。

    ただし、人の食材に全く興味を示さない子もいます。手作り食を実践する前に、人の食材に興味を示すか確認することをおすすめします。

     

    手作り食は目分量で大丈夫?手作り食のデメリットとは

    手作り食は目分量で大丈夫?手作り食のデメリットとは
    (Viktoriia Bu/shutterstock)

    手作り食のデメリットとして、犬や猫が必要とする栄養を過不足なく与えることが難しい点が挙げられます。

    過去には、味噌汁をご飯にかけただけの「ねこまんま」と呼ばれるようなものを与えていた時代もありました。しかし、犬や猫は必要とする栄養の要求量が多く、人の料理の感覚で調理をすると栄養素の過剰や欠乏により健康被害を引き起こすことがあります。

    また、現時点においてインターネット上で無料公開されているレシピや書籍に記載のあるレシピで、主食として推奨される総合栄養食やAAFCOの基準に則っているものはほとんどないでしょう。

    その手づくり食の情報は本当に安心?数多くある情報の見極めのススメ

    その手づくり食の情報は本当に安心?数多くある情報の見極めのススメ
    (create jobs 51/shutterstock)

    手作り食の情報は、インターネット、書籍と数多くあります。しかし、主食として与えてもよい栄養価の手作り食の情報は極めて少ないため、何をもとにして食事を作るかが非常に大切です。

    人都合の情報に惑わされない

    手作り食であろうと、市販のドライフードやウェットフードであろうと、食べるのは犬や猫たちです。「手作り食だから市販の食事よりも栄養の過不足があっていい」ということはありません。

    「簡単」「おしゃれ」「ひとつの栄養素を取り上げて体によい」といった情報に惑わされないようにしましょう。

    情報を見極めるポイント

    栄養バランスを無視した手作り食により、愛犬・愛猫の健康が大きく左右される場合もあります。専門家が発信していたり、よい内容に思えたりするものでも、次の点を必ず精査してください。

    具体的な食材やグラム数の記載のないレシピは避ける

    体の小さな犬や猫にとっては、油が1g違うだけでもカロリーが大きく異なります。次のような曖昧な表現で、犬や猫の必要な栄養価を満たすことはないと言えます。

    • 野菜、肉類、穀類は〇対〇対〇のバランス
    • 食事の量は頭のサイズと同じくらい
    • 季節の食材を取り入れれば栄養は不足しない
    • 「ひとまわし」「ひとかけ」
    • 調理前のグラム数なのか、調理後のグラム数なのかがはっきりしない

    計量は手作り食の基本です。計量工程がない、または曖昧なレシピを主食とするのは避けましょう。

    サプリメントの添加がないレシピは避ける

    栄養要求量の高い犬や猫において、サプリメントを足さずにAAFCOや総合栄養食の基準をクリア、またはそれに近い状態にもっていくことは難しいでしょう。

    栄養バランスが明示されているレシピを選ぶ

    AAFCOや総合栄養食の栄養基準は公開されています。乾燥重量や、カロリーあたりの栄養素を比較し、基準を満たしているかどうか確認してみましょう。

    自分で計算してみる

    日本にある一般的な食材のデータは、文部科学省が食品成分データベースとしてインターネット上に公開しています。大変ではありますが、飼い主さんが計算し、栄養基準と比較してみるのが一番安心です。

     

    手作り食でとくに不足しやすい栄養素って?

    手作り食でとくに不足しやすい栄養素って?
    (Studio Romantic/shutterstock)

    前述のとおり、食材のみで総合栄養食やAAFCO基準を満たすことは非常に難しいです。サプリメントなども活用し、ビタミンやミネラルを追加してあげましょう。

    特にカルシウム、リン、亜鉛は手作り食で非常に不足しがちな栄養素。ちまたに公開されているレシピのほとんどが、栄養基準を満たしていません。総合栄養食やAAFCOの基準と適合しているか確認する際は、こういった栄養素から計算してみるとよいかもしれません。

    便や皮膚被毛は栄養状態のバロメーター

    便や皮膚被毛は栄養状態のバロメーター
    (Tania__Wild/shutterstock)

    「生肉は酵素が豊富で体によい」「下痢はデトックス」といった情報も見受けられますが、科学的な根拠はありません。消化吸収がよい食事を摂れば、便量、排便回数が減る傾向があります。

    また、栄養計算せずに手作り食を調理する場合、飼い主さんが脂質過剰を気にする傾向があります。しかし、極端に脂質が低く必須脂肪酸が不足すると、皮膚被毛の状態にも影響します。逆に、油を計量せず大量に与えると、犬の場合は膵炎を起こして嘔吐・下痢につながることもあります。

    栄養素の不足や過剰は、1日2日で大きな悪影響を引き起こすことは少なく、数か月、数年単位で体に悪影響を及ぼしていきます。そのため、食事が原因だと特定することが難しいこともしばしばあります。

    これから手作り食を始める人は、正しい知識で正しいレシピを選択し、現在手作り食を与えている飼い主さんは、今の食事が本当に安心できるものなのかを振り返ってみてください。

    なお、健康上、特別な理由がないのであれば普段のフードにトッピングを加えるほうが取り入れやすいです。大きく栄養バランスを崩すことがないよう、トッピングは1日の摂取カロリーの10%程度に留め、愛犬・愛猫のために、安心安全な食生活をしていきましょう。

    次回連載

    著者・監修者

    岩切裕布

    獣医師/ペット栄養管理士

    岩切裕布

    プロフィール詳細

    所属 yourmother合同会社 代表
    (獣医師によるオーダーメイドの手作り総合栄養食や療法食レシピをお届けする「DC one dish」の運営)


    日本ペット栄養学会
    日本小動物歯科研究会
    日本獣医腎泌尿器学会

    略歴 1987年 東京都に生まれる
    2005年 麻布大学 獣医学部獣医学科に入学
    2011年 獣医師国家資格取得
    2011年~2016年 都内動物病院に勤務
    2017年~2018年 フードメーカー勤務
    2018年~ DC one dish 設立
    2020年~ yourmother合同会社 設立

    資格 獣医師免許
    ペット栄養管理士

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